わがまま科学者の英語講座

科学系の英語だけでなく、広く「英語」についての話題

科学文章作製の科学(その2)

サイエンスライティング指南の「古典」のようにも言われる「The Science of Scientific Writing」という記事についての「その2」です。

 

文章の意味は、書き手ではなく、読み手が解釈することで決まる。この観点から、読み手を想定し、読み手がよりよく理解できるための文章の書き方を、「The Science of Scientific Writing」では説いています。

 
そして、文章の流れのなかで、読み手にとって、わかりやすく書くために、ストレス・ポジションとトピック・ポジションという2つの独特な概念を持ち出しています。
 
4)ストレス・ポジション Stress position
「ストレス・ポジション」とは、文、パラグラフ、セクションの末尾
 
読み手は、ここに大切な情報があると期待しています。つまり、強調(ストレス)したい情報をここに置くことで、読み手に対して強調したいことを的確に伝えることができるわけです。
 
5)トピック・ポジション Topic position
「トピック・ポジション」とは、文、パラグラフ、セクションの始まり
 
読み手は、ここに話題(トピック)となる情報があることを期待しています。トピックとは、人、場所、もの、概念、そして、しばしば接続のディスコースマーカー(下記注)を伴います。こうして、「トピック・ポジション」にある情報が、それまでにでてきた情報と連結されるわけです。

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 Aという文があったとすると、文の最後のストレスポジションに強調したい事柄が置かれます。そして、読み手はそれを期待しています。
 
ーーーーーーーーーAーーーーストレスポジション(強調)
 
そして、次に続くBという文の冒頭では、前にある文Aを受けて、話題が書かれる。トピックポジションには、トピックが置かれていることを、読み手が期待しています。書き手は、その読み手の期待に応えるべきなのです。
 
トピックポジション(話題)ーーーBーーーーーーーーーー。
 
こうして、AのストレスポジションとBのトピックポジションが連結されるわけです。その結果、AからBという論理の流れができる。そして、これが交互に繰り返されていく。このような流れで書かれていると、読み手にわかりやすいということです。
 
ーーーーーーーーーAーーーーストレスポジション(強調)トピックポジション(話題)ーーーBーーーーストレスポジション(強調)トピックポジション(話題)ーーーCーーーーストレスポジション(強調)トピックポジション(話題)ーーーDーーーーストレスポジション(強調)トピックポジション(話題)ーーーEーーーーストレスポジション(強調)
 
例を挙げておきますが、手持ちの論文中の任意の場所でこのことを確認してみてください。
 
The inner ear structure of the KO was assessed first for the presence of synaptic ribbons and synapses (Maxeiner et al., 2016). Validating loss of hair cell ribbons was accomplished using immunohistochemistry for the RIBEYE B-domain (CtBP2). Anti-CtBP2 labelled the ribbons in wildtype (WT) but not in the KO animals (postnatal day 21, P21)(Figure 1A). Nuclear CtBP2 was still observed in both WT and KO (not shown) because the KO is specific to the RIBEYE A-domain. ..
 
なお、小野雅裕さん(NASA, JPL)が、もう少し柔らかい例を使って、同じような議論をしていますので、参考にしてみてください。
 (注)ディスコースマーカーについては、別の機会にまとめてみたいと思います。
 
続く。