わがまま科学者の英語講座

科学系の英語だけでなく、広く「英語」についての話題

「論文投稿しても査読が遅い」対策

論文をジャーナルに投稿しても、査読に時間がかかり待たされる。忘れたころに査読結果が戻ってくる。そしてRebuttalを用意して、再投稿するが、またまた時間がかかる。これが何度も続いて、なかなか「Accept」されない。投稿原稿がなかなか業績にならず、研究費の申請やキャリア形成(学位が取れない。次が決まらない)に大きな影響を与える。こういうことがよくあると思います。
 
最近はプレプリントサーバに出して、それを研究費やキャリア形成に使うということもある程度可能にはなってきています。しかし、「論文投稿しても査読が遅い。困った。」というのはまだまだありそうです。今回はこの対策を紹介してみたいと思います。
 
不備のある論文原稿を投稿しない
最近のジャーナルは、投稿原稿をエディタ(査読者を決めたり、最終的な論文の採否に関わる研究者)にまかせる前に、その投稿原稿の質を審査するようになっています。まず剽窃チェックソフトウェアでチェックします。特に英語が外国語になっている研究者が投稿すると、ここで様々な問題があって、次に進まないというケースが意外と多いようです。
もちろん、論文の執筆の段階で逐次注意していくのが大切です。しかし、学生さんなど他人が書いたものや自分で書いてもどこかから文章をコピペしたことを忘れてしまうということもあると思います。剽窃はダメだと言っても、それを読んでいるだけで人間が見つけるのは難しいです。これを避けるには、やはり事前に剽窃ソフトウェアを使ってみるのがよいと思います。例えば、有料版のGrammarlyなどではそういうソフトウェアが使えるようになっています。

また、一部の編集サービス(英語のチェックを含む)では、剽窃チェックをやってくれるところもあるようです。
 
私が査読やエディタをやっていて体験したものとしては、こういう不備のある論文原稿にはこういうものがありました。
 
1)自己剽窃:10個のセンテンスからなるパラグラフすべてが著者が過去に書いた別の論文と全く一緒。同じような研究をやっていればある程度はやむを得ないとは思いますが、長文が全く一緒というのはよくないと思います。言い回しを変えるとか、新しい情報を入れるとか、おそらく数分間でこういうのを変更することができるはずなので、やはり避けるべきだと思います。
 
2)英語があまりに稚拙。一番困るのは、英語が稚拙なのに、それに気づいていないという研究者が結構いるということです。
 
3)投稿雑誌のフォーマットとあまりに違いすぎる。既にどこかの雑誌に投稿してリジェクトされたのでしょうか。最近はフォーマットが割合とフレキシブルなジャーナルも増えていますが、やはり全体的にあまりに違い過ぎるというのは避けるべきでしょう。例えば、Methodsの位置を入れ替えたりとか、全体の構成をジャーナルに合わせて、ある程度変更するのはやって欲しいと思います。
 
 
査読者を見つけやすくする
査読の時間が長くなるのは、実は査読そのものに時間がかかるのではなく、「査読者が見つからない」ということが一番大きな律速段階になっていることが多いです(理解するのが困難な京大望月教授のABC予想証明論文のようなケースは別として)。研究者がボランティアでやっているのが現状の査読制度ですので仕方ないのです。査読者が見つかれば、結構、迅速に査読をやってくれるケースがほとんどです。査読も、おそらく有名雑誌から査読依頼があれば受ける可能性が非常に高いです。ところが微妙な雑誌の場合ですと、査読を引き受けるかどうか迷うケースが多いです。ですからそういう雑誌の常として時間がかかってしまう。しかし、投稿する際にも、ある程度、その対策をすることも可能ですので、いくつかコツを紹介してみたいと思います。
 
1)適切なエディタ(編集担当者)を選ぶ
査読依頼では、論文のタイトル、著者名、それとアブストラクトを添付するのがふつうです。したがって、これだけの情報で査読を引き受けるか判断するわけです。査読依頼を受けるときには、内容はともかく、論文の著者や機関を見て引き受けるか、判断するというケースが多いです。著名研究者が著者であるとか、メジャーな機関からの投稿ですと、内容的にも読んでみたいと考える人が多い。逆に微妙な感じの著者や研究機関からの投稿ですと躊躇する。でも、こういうのは変えることができないので諦めるしかないと思います。
 
査読依頼者(エディタ)が査読者の知人であると、引き受けてくれる可能性が高いです。したがって、エディタが選択できる場合は、その分野の正しいエディタを指名することが大切です。
 
2)分野や研究対象を明確にする
それと時々あるのが分野が明確でない原稿です。アブストラクトを読んでも、あまりに対象が広く、どういう分野の論文なのか、わかりにくいことがあります。また、新規性の高い論文ですと、過去に類似した研究が全くないというようなケースがあります。もちろん、これは新規性が高いわけで良いことなのです。でも、こういう対象が広すぎたり、新しすぎたりする場合、適切な査読者を見つけにくいというのも事実です。おそらくアブストラクトやタイトルで分野をできるかぎり明確にするということが大切です。分野の違う査読者が選ばれると、的外れなコメントがでてくる可能性も高いので、後で苦労することにもなりかねません。
 
3)アブストラクトを工夫する
査読を引き受けたいと思ってもらうために、魅力的に書くということは大切でしょう。また、科学的な概念だけでなく、結論を導くために、どういう方法や技術を使っているのか、ということを書くと、査読者の選定がしやすいです。査読はやはり方法の妥当性を中心にみることになるので、その方法を検討してもらうタイプの査読が中心になることが多いからです。
 
4)査読者の候補をできるだけ書く
ジャーナルによっては、査読者の候補を具体的に提案することができます。また直接そのような機会がなくても、カバーレターに書くということも常識的に可能であると思います。もちろん、エディタが著者から提案された査読者を選んで、その人が査読者となるとは限りません。エディタによっては意図的に書かれた候補者を避けるケースも多いです(例えば、明らかに著者とコネがあるっぽい)。また分野の大御所のような人を候補にあげても、そういう人は忙しいことが多いので、論文の内容によっては大御所に査読依頼をすることを躊躇しますし、現実断られる可能性も高い。ただ、どういう分野の人に査読を依頼するべきか、という参考になることが多いことも事実です。
 
したがって、書くことができれば、書いた方がよいと思います。このとき、ネットでビジビリティの高い研究者を候補として選ぶというのは1つの方法です。実は、査読依頼をしても、その相手とコンタクトできないというケースが非常に多いのです。何度連絡しても連絡が取れない。よくわかりませんが、メールをほとんど見ない人がいるのではないか、あるいはジャンクメールとしてしまうのか、と考えます(一番困るのはYes, Noの返事も長期間ないということです)。日本でもそういう人が結構います(こういう人は研究者コミュニティに貢献していないので、研究者としての評価を低くするべきです)。例えばTwitterやっているとかネットでのビジビリティが高い研究者というのはメールもチェックしていると思いますので、そういう研究者はいつも対応が早いです。逆にネットで検索してもビジビリティがない研究者というのは連絡をとっても返事がない、対応が非常に遅いというケースが多いです。
 
5)論文中、特にイントロで査読してもらいたいような研究者の論文をできるだけ引用する
査読者を探すとき、論文のイントロを見て、そこにある論文の著者を考慮することが多いです。可能だったら、論文のイントロにそういう論文を引用すると良いと思います。またディスカッションで引用されている論文の著者も考慮することがあります。この場合、いわゆるコンペティターの論文を引用するケースも多いかもしれません。こういうコンペティタに査読してもらいたくないという場合は、ほとんどの場合、考慮されることが多いと思いますので、そういう人がいる場合は、カバーレターなどに書くのもよいと思います。

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